2020年05月03日

キセキ その18 〜平川地一丁目〜

すっかりお久しぶり(約3年ぶり)となってしまいました、アーティスト特集企画「キセキ〜僕を作った音楽達〜」。
(企画内容とタイトルの意味はこちら

第18弾となる今回は、"平川地一丁目"を紹介したいと思います。

平川地一丁目は林龍之介さんと林直次郎さんによる兄弟フォークデュオ。

往年のフォークらしい素朴さを持ったユニットが、この時代に出てきたのは新鮮。
しかも、メジャーデビュー時は二人とも中学生だったというのはかなりの衝撃だった。

また、佐渡島在住というのも個人的には印象が強い。
というのも、自分は血縁的に佐渡島に縁があるので、勝手に親近感を持っていただけではあるが…。

それは置いといて、彼らの歴史を振り返ってみようと思う。

インディーズ時代に「七つのひらがな」というミニアルバムをリリースしているのだが、これに関しては後述。


やはりメジャーデビュー曲「とうきょう」から語っていこう。


上で中学生兄弟デュオであるこが衝撃と書いたが、その背景を除いても楽曲そのものが衝撃的だった。

激情ハードフォーク。
斉藤和義さんをプロデューサーに迎えたこの曲は、そう表現されていた。

渋く激しく攻め立てるアコギの音色。
この音からも焦燥感のようなものを感じさせるのだが、そこに乗る直次郎さんの拙い歌声から滲み出る感情からも見えてきたのは、東京という都会の虚無感。

♪思い出一つ何も無い 東京
デビューしてこれから始めていくんだという時に、こんな言葉を綴ることが出来るだろうか?

東京に出て歌を歌うことへの不安な心境も入っているだろうが、それだけでは語れない強さと弱さのようなものがこの奥にはある気がした。

それは平川地一丁目が歌を歌う理由。
まさに彼らの魂とも言える楽曲だったように思えた。

それは多くの人の心を動かし、オリコン最高位23位を記録し、16週に渡りランクインするというロングヒットとなった。

そのヒットも記憶に新しい中、3ヵ月というペースで2ndシングル「桜の隠す別れ道」をリリース。


こちらは打って変わって、アコギのシンプルな音色を響かせる叙情的なフォークソング。
タイトルからもわかる通り、卒業をテーマにした楽曲だ。

兄の龍之介さんが実際に中学卒業というタイミングということもあり、言葉一つ一つに卒業と向き合う生の感情と現実感がとても染みる。

「とうきょう」の衝撃はもちろん凄かったが、フォークソングをよく聞いて歌ってきた彼らの真骨頂ともいうべきこの楽曲も素晴らしいものだった。

平川地一丁目の名前も徐々に知られるようになり、続く「君の分まで」では初めてドラマのタイアップもついた。


ただ、これまでとは少し印象が違い、イントロからオルガンの音が入るなど、優しい印象が特徴的だった。
編曲が斉藤和義さんでは無く、鹿島達也だったことが大きいが、タイトルにもある"君"という存在への言葉がこの優しさの根源でもあった。

ここから約2ヵ月後にはファーストフルアルバム「えんぴつで作る歌」をリリース。


シングル3枚のA面とカップリング曲の6曲が入っていて新曲が少なめなのは少しもったいなかったが、古き良き良質のフォークソングの数々を聴かせるには十分すぎる一枚。
アルバム曲の中でも、染みるような「福田の夕陽」やキャッチーなメロディが印象的な「君との約束」は特に良かった。

このアルバムはオリコン最高位7位も記録。
実はこれは、男性アーティストTOP10入り史上最年少記録でもある。(今も変わっていなければ)

この時代にここまで純なフォークソングを歌う彼らが評価されたのは、非常に嬉しかった。

続いてリリースされたのが「きっとサンタが」。
企画限定盤で、初の完全セルフプロデュース作品。


アコギとハーモニカ、飾らないドラムで構成されたシンプルな楽曲。
これまでの古き良きフォークらしさとは一線を画していて、もっと現代らしい日常感とロマンチックさがあったのは結構意外だった。

それと同時に、ここから次はどんな曲を出してくるのか楽しみにしていたところ、出てきたのは「はがれた夜」。


もうタイトルの時点でかなり強烈だったのだが、その中身は再び斉藤和義さんを編曲に迎えたフォークロック。

♪はがれた心が あの頃支えた

強い言葉ではあるが、同時に意味深な言葉でもある。

全体的に綴られた言葉は少なく、読み取れる状況は断片的。

悲しみを抱えてるのだけれど、その悲しみに正体は何か。
遠くに見える希望、気持ちを支え続ける優しさと温もり。

そして、はがれた心。

一つ確かなのは、後ろ向きな楽曲ではないこと。
アウトロの長い余韻も含め、過去を受け止めながら前を見据えているのが伝わる。

この楽曲は非常に強い。
「とうきょう」の存在感は確かに凄かったが、メジャーの舞台に出て戦っている姿が見えるこの楽曲の光と影には惹きこまれるものがあった。

また、この楽曲辺りから自分の言葉が見えてきたような気がした。

十六度目の夏」は顕著だった。


その名の通り16歳の夏を描いた楽曲。
龍之介さん自身の年齢でもあり、君を想う一途な気持ちに等身大の言葉を感じた。

アルバムまでの楽曲は古き良きフォークであったのと同時に、少し背伸びをした言葉を紡いでいる印象がどうしても奥にはあったので、伝えたい言葉が見えてきたのが少し微笑ましかった。

そして、2ndアルバム「海風は時を越えて」。


平川地一丁目で一番の名盤を聞かれたら、これと答えるだろう。

古き良きフォークと、等身大の言葉。
直次郎さんの声変わりもあり、これまで培ってきたものと日々進化をし続ける平川地一丁目の今が交錯した、絶妙なバランスの上に成り立った名盤。

「あかね色の空」や「十六度目の夏」の甘酸っぱい片思い。
「夢見るジャンプ」の朗らかさ。(この曲については後述)
「背広姿のエライ人」や「はがれた夜」のような現実に抱えた陰。

この陰に関しては、「夏の終わりの蜃気楼」という大名曲を語らないわけにはいかないのだが、語ると長くなるので、こちらに書き起こしたレビューを是非。

また、佐渡島を描いた楽曲が多いのも特徴だ。

「島を離れる夢を見て」の"素浜"という実際の地名であったり、"この島で"、「霞んだ山の向こう」の"海の向こう"のような島を想像させる言葉。

「いつもの帰り道」は佐渡汽船のカーフェリーから眺めた景色と情景が描かれていて、自然とその場面が目に浮かぶ。
自分自身も何度も佐渡を訪れているが、この楽曲の情景にはすごく親近感を覚える。

後半に畳みかけてくるコーラスの熱さと優しさが最高に心地よいのも触れておきたい。

ちなみに、上で後述と書いた「夢見るジャンプ」。
アルバムから約3ヵ月後に「夢見るジャンプ〜みんなのうたver.〜」としてシングルカットをしている。

シングルとしては初めて直次郎さんが作詞作曲を担当したことになる。

タイトルにもあるようにNHK「みんなのうた」にも採用された楽曲で、動揺のような馴染みの良いメロディが心地よく響く。

♪大きくなりたくて精一杯ジャンプする

ここまでが文学的ともいえるくらい深い言葉が多かっただけに、この真っ直ぐな言葉は新鮮に映る。
曲調もあり、朗らかな気持ちにさせてくれるのが良かった。

こうして少しずつ変化をしてきた彼らの音楽だが、ここで大きな転換期を迎える。

プロデューサーに笹路正徳を迎え、フォークロックギターデュオとして新しい音楽を奏で始める。
その最初を飾るのがシングル「夢の途中/校庭に見つけた春」。


「夢の途中」はイントロの幕が上がるような音の時点でかなり雰囲気が違うのがわかる。
何より特徴的なのは、歌詞が明確に聴き手への応援になっていること。

今までは自分の中の感情を吐き出している印象が強かっただけに、この言葉は新鮮だった。
何よりその言葉の紡ぎ方の勇敢さというかな、真っ直ぐでもあり染みるようでもある。

「校庭に見つけた春」は「桜の隠す別れ道」以来の卒業ソング。
中学を卒業する直次郎さん自身の想いを紡いだ言葉には、別れと葛藤が描かれている。

"また明日"と言いたいのに、そのまた明日は来ない。
今この時の尊さを、永遠に忘れたくないという願い。

この言葉だけでも切ないのだが、サビの"あぁ"のフレーズがまた切ない。
切実な想いを感じる名曲だ。

ここから2ヵ月後には「運命の向こう」をリリース。


これは龍之介さんの人生観とも言うべき言葉が凝縮されている。

♪人はなぜ悲しい人見て 少しだけ安心するなぜ?

高校3年生にしてこの言葉を綴れる感性が凄い。
かなり核心をついた言葉で、これを聴くとかなりドキッとする。

この方向性で次は何が来るのかなと思っていたところ、リリースされたのは「歌い手を代えて」。


これは、今まで主にシングルのカップリングに収められていたカバー曲9曲に、新録の3曲を追加したカバーアルバム。

彼らの原点であるフォークソングは素朴さが出ていて非常に聴き心地が良い。

だが、結構意外だったのが、フォークソング以外の楽曲もあること。
1曲目にTHE BLUE HEARTSの「TRAIN-TRAIN」があるのがまさに。

新たに打ち出したフォークロックギターデュオというものの一つの形で魅せてくれたのは大きい。

そこから少し空いて、「永遠の約束」をリリース。


この曲はまた路線が違う感じだ。
ポップさが強いが、日本のポップスというより懐かしい洋楽の雰囲気があるというほうがわかりやすいだろうか。

ただ中心にあるのはやはりアコギの音色なので、素朴な雰囲気は残っている。
その中で歌われる約束、しかも"必ず守るよ"なんて熱いことを歌うので、不思議と耳に残ってしまう一曲。

そこから二週間後には、3rdアルバム「雪解けの頃に届く手紙」をリリース。


これはフォークロックギターデュオとしての一つの集大成。
シングルから続く自分の正直な想いを言葉を紡いだ詩と音の響かせ方で魅了する、大人びた一枚だ。

少しジャジーな「時の停まった部屋」から驚いたが、「ハイヒール」の軽妙さはどちらかといえば今までの彼らだなと思えば、「雨の日の仲直り」ではほとんどギターの音が無い暗い世界観を表現していたり、一筋縄ではいかない。

その「雨の日の仲直り」からロック色の強い「悪魔の片想い」へ急展開した後も、跳ねるようなリズムで心理を歌う「ビンタしたいヤツ」、ちょっとした強がりを軽快に聴かせる「パリな僕」と続く。

12曲目にアルバムタイトル曲である「雪解けの頃に届く手紙」というインストを挟んで一旦終わったような演出をして、最後の最後にエンドロール的に「おやすみのうた」が入る展開は憎い。

「おやすみのうた」は龍之介さんが作詞作曲だけでなく編曲もしていて、平川地一丁目としての表現したいことは何かが少し見えてくる。

"今日は何もなかった"
"明日はきっとドラマがある"

この言葉は聴き手に伝えようとしているものではあるが、どことなく自分自身への言葉にも感じる。
葛藤を抱えながらも前に進もうとする彼らの決意でもあったのかもしれない。

このようにかなり自分自身と向き合った渾身の作品ではあったのだが、オリコンでは最高位126位と2ndアルバムはおろか、カバーアルバムよりも低い結果になってしまったのは残念でならない。

ただ、この路線は確実に彼らのものになっているとも感じていたので、この方向でどんな作品が出てくるか楽しみにしていた。

そこでリリースされたのがシングル「闇夜に生まれて」。
これは衝撃だった。


久々に「とうきょう」を彷彿させるような激情ハードフォークで、いじめや自殺といった事に真っ向から向き合った言葉がとても強い。

大丈夫のような支える言葉ではなく、その状況に立ち向かう術と真理を綴っていて、聴いていると奮い立つというか鼓舞してくれるような気持ちになる。
正直このテーマでここまで攻めた言葉はあまり見たことが無い。

"こんな時代の目を覚ませてやれ"
最後のこの言葉は今でも自分の中で強く響いている。

続くシングル「うたかた」は更なる驚きを持って迎えられた。


これは初の共作曲。
作曲は龍之介さんだが、作詞を森山公一さんが担当。

森山公一さんはサウンドプロデュースの面でも関わっていて、平川地一丁目の新たな一面を見せた楽曲。
この辺りはこちらでレビューも書いているので是非。

新たな展開を見せる彼らの動向に注目していたのだが、「うたかた」のリリースからわずか2か月後の2008年5月、解散することが発表された。

正直、この解散は全く予想していなかった。
リリース間隔が極端に空いたりとかベストアルバムをリリースしたりといった予兆があればもしや?と思うのだが、これはかなり唐突だった記憶がある。

それについては後にインタビューで語っているのを聞いたのだが、ちょうど直次郎さんが高校三年生で卒業後のことを考え、ここで決断しなければいけなかったと。
平川地一丁目を続けていては、一人の人間として成長していくことが難しいのではないかと。

デビューから約4年半。
毎週佐渡島から東京への行き来をしてきていて、学生生活と並行して音楽活動をしていた中で不安や葛藤があったと思う。

一度ここで終わらせて、これからのことを考えたい。
この歳でこの判断をすることは勇気がいることだっただろう。

ここからの展開は非常に早かった。

7月にラストシングルとしてデビュー曲「とうきょう」のセルフカバー「Tokyo」と、ベストアルバム「平川地一丁目」を同時にリリース。
(ベストアルバムのレビューはこちら



そして、ラストツアー。

発表からわずか3か月での解散はどこか慌ただしさもあったが、全力で駆け抜けていった。

リリースとしては、解散後にベストアルバムに収録されなかった曲とラストライブのDVDを収めた「平川地一丁目U〜もうひとつのベストアルバムとラストライブ〜」を以て終結。

始まりは「七つのひらがな」だった。

アコギ音色だけでも哀しいのに、サビで"走って 走って"と何かを追いかけているような焦燥感を聴かせる「青い花」に始まり、「時計の独り言」では時計自身が"時間を知りたいなら 他を当たってくれ"と諦めを響かせ、「かわれないので」で見せた"もう少しだけ愛して下さい"という悲痛な胸の内。

こんな純度が高く素朴で悲しい曲を、幼い声が響かせていたら釘付けにならないわけがない。

そこから5年半。
綴る言葉だけでなく、楽曲も変化と進化を遂げていたが、音楽を通して伝えようとしたことと、類まれなメロディセンスは最後まで揺るがなかった。

良い歌をありがとうございました。


…と、本来ならここで終わるのだが、実は嬉しい話がある。
去る2018年、解散から10年が経ったこの年に復活を遂げているのだ。

そして、2020年4月27日。
まさかまさかのニューアルバム「時のグラデーション」を実に13年ぶりにリリース。


リリースの情報は確か2019年末に聞いて、一人でテンション上がっていたのを覚えている。

アルバムに関してはこの後レビューをアップするので、楽しみに待っていただければ。

(追記)
「時のグラデーション」のレビューアップしました。
こちらからどうぞ。
posted by micarosu at 16:14| Comment(0) | キセキ 〜僕を作った音楽達〜 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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